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第11話 ポルトガルの花瓶

monsoon photo

ロンドンでの生活をおくる中で、僕はいくつかの習慣を捨て、いくつかの新たな習慣を身につけました。
すなわち、テレビを見なくなったこと、クラシックコンサートに出かけるようになったこと、
ジョギングを生活の一部として取り入れたこと、花のある生活をするようになったことです。

テレビをみなくなったということは、現在の家にテレビがはじめからなかったというのがそもそものきっかけでは
あるけれども、そのような副次的な作用でというよりはむしろよりつよい明確な意志を持ってテレビから遠ざかっています。

クラシックコンサートはこの町が僕をとても自然にその場所(コンサートホール)へ導いてくれました。仰々しくもなく、
敷居が高い訳でもなく、日常の続きとしてこの町ではオーケストラが日々どこかで鳴っているのです。

僕は基本的に走ることに意味とか楽しみを見いだせなかった種類の人間であるけれども、日本では無理矢理に近いかたちで
ランニングマシンのベルトの上を走っていました。それでも、走った夜の深い眠りとか、次の日の心地よい筋肉痛が僕を次の
走りへと導いてくれて少しずつその「楽しみ」を理解できるようになりました。
ロンドンでの、確実に残り少なくなっていく時間をより長く目に焼き付けたいという思いでテムズ川沿岸を日々走っています。

そして最後に、花のある生活を楽しむようになりました。冬のロンドンは、毎朝一部の隙もない分厚い雲に覆われて始まります。
曇り空の似合う町という風に表現すればまだ救いはあるけれども、そこに住む人間としてはやはりまぶしい光に誘われるように
自然に目をさましてみたいものです。せめて週末くらいは。

そのような町で「色」を探すのはとても自然なことで、僕は必然的に花を買い部屋に色を取り入れることになったのです。
旅先では風景とともに花瓶を探すようになりました。

ポルトガルの蚤の市で見つけたゼブラの花瓶が最近のお気に入りです。

次回は、【第12話 イームズのハウスバード】